父の日に思う ep.3
親父の背中 3
俺の親父はもういない。
普通の親父だった。怒ることもなければ、何かこれと言ってしゃべることもなかった。
俺の育った村は古くから保守的で、昔の戦いで亡くなった人や、現役Shadowに村を上げて応援してきた。小さなころからそれがあたり前の環境だった。
祖父も、その親も親戚も従軍し生涯軍人であることを皆望んだ。だが、終戦がそれを阻んだ。
俺の親父は違った。一切そのような仕事はすることはなかった。思春期の俺はそんな親父を見下していた。
俺は見せつけるようにShadowとなった。
親父は何も言わなかった。
それから数年たった。長期の仕事だった。期間の半分を終えて帰ると母から着信。
親父は末期がん。余命二か月。
動揺した。
見下してた親父がもうすぐ死んじまう。
どうでもいいのに、、、一週間後にはまた長期の仕事に戻らなければいけない。戻ったらもう会えないかもしれない。
悩む自分にいら立った。
母に電話した。おれ、帰らないから。仕事あるから。
二か月後仕事から帰ると、親父はまだ生きてた。なぜかほっとした。
休暇を取って一度実家に帰った。
帰ると家にいた。あれ?もしかして治ったのか。
違った。
骨と皮になってしまった親父は、母に言ったらしい。息子が頑張ってるのに、病院なんかで寝てられない、それに薬飲んだら意識なくなって、息子と最後に話せないから薬も飲まない。我慢する。家で息子を待つ。
馬鹿だよな。最後に親父面しやがって。くそみてぇに。
今まで何もしてこなかったのによ。
医者に言われた。この体で生きてることも奇跡だが、薬も飲まずに堪えるには痛みがすごい、ナイフで体中刺されているような痛みです。入院させてあげてください。せめて薬を飲むよう説得してくださいと。
俺は泣いた。周りの目など気にせず泣いた。
死を前にして親父の強い意志と強い忍耐力を知った。
そして、俺への愛情を。
俺は泣いた。
帰って親父に言った。ありがとな。
最後に二人で煙草を吸った。
なにもしゃべらなかった。お互いこれが最後だってわかってた。
それから俺は何をするときも、仕事でどんなにつらい状況が待ち受けていても、どんなに挫折しても、どんなに傷だらけになっても、親父がいなくなってこの10年間一度もあきらめなかった。
親父のつらさはこんなもんじゃなかった、、、そう思うと頑張れた。
親父、見てくれよ、あんたと同じで忍耐力だけはありそうだ。俺、
言いたくないけど。
自慢の親父だよ、結局は。
煙草はやめない。あの時を思い出したいから。一緒に吸った最後の煙草を。